ニュースの概要
韓国のシステム統合大手LG CNSと、量子アニーリング方式の量子コンピューターを手がけるD-Wave Quantumが、企業向け最適化ソリューションの普及に向けた覚書を結んだ。法的な拘束力はない。D-Waveの量子技術に、LG CNSの業界知識、数理最適化の技術、システム構築力を組み合わせる。対象は製造、通信、金融、小売といった、組み合わせが膨大になる業務課題だ。両社が強調するのは、試験的な実証にとどまらず、本番環境で動くアプリケーションを作ることである。韓国国内だけでなく、海外市場への展開も視野に入れている。
引用元: LG CNSとD-Wave、韓国で量子最適化の企業導入を推進(Evertiq)
分析・見解
注目すべきは技術より「つなぎ役」の存在
D-Waveは量子アニーリングという方式の機械を売ってきた会社だ。一方でLG CNSは、顧客企業の基幹システムに深く入り込んでいる。この組み合わせの本質は、技術の優劣ではなく役割分担にある。
量子コンピューターの課題は、機械の性能だけではない。現場の業務を数式に直す作業と、既存システムにつなぐ作業が重い。ここを担える統合事業者が加わる意味は大きい。
量子アニーリングが得意な問題と苦手な問題
量子アニーリングは、膨大な選択肢の中から条件に合う良い組み合わせを探す方式である。配送ルート、工場の生産計画、人員のシフト割り当てなどが典型例だ。
ただし万能ではない。暗号解読のような汎用の計算は、別方式の量子コンピューターの領域になる。また、従来のコンピューターでも工夫次第で十分に解ける問題は多い。量子の出番は、問題が大きく、条件が複雑で、答えを素早く出す必要がある場面に絞られる。
実証実験止まりが続いた理由を読み解く
量子分野では長年、実証実験は成功しても本番導入に進まない例が多かった。理由は三つある。計算結果の品質が毎回ぶれること。既存の最適化ソフトと比べた費用対効果が見えにくいこと。そして運用担当者が不足していることだ。
日本でも、自動車部品工場の搬送経路やタクシー配車の実験が行われてきた。成果は出たが、全社展開まで進んだ例は限られる。今回の覚書が本番運用を掲げた点は、この壁を正面から意識した表明といえる。
覚書という形式から見える慎重さと勝負どころ
拘束力のない覚書は、発表としては軽い部類である。売上目標も導入社数も示されていない。つまり現時点では、意思表明の段階にすぎない。
注目すべきは、成果が出た後だ。最初の導入事例が、どの業種で、どの程度のコスト削減や時間短縮を示すかで評価は決まる。韓国は国を挙げて量子分野に投資しており、大企業グループが自前の統合部門を持つ構造も追い風になる。国内の大口顧客で実績を作り、海外へ広げる筋書きは現実的である。
ビジネスへの影響
自社の業務で「量子向き」の問題を見極める
まず取り組むべきは、機械の購入ではなく、課題の棚卸しである。条件の数が多く、現場の熟練者が経験で解いている業務が候補になる。例えば、物流の積み込み順、工場の段取り替え、店舗ごとの発注量の調整などだ。
判断の目安は、今の方法で計算に何時間もかかる、あるいは担当者の勘に頼っている、という二点である。該当すれば、量子を試す価値がある。
小さく試し、従来手法と必ず比べる
試験導入では、従来の最適化ソフトとの比較を必須にしたい。量子側が勝つとは限らない。むしろ、比較して差が小さいなら、従来手法を使い続けるのが合理的である。
クラウド経由で使えるため、初期費用は大きくない。数か月、一つの業務に絞って検証し、計算時間、コスト削減額、結果の安定性を数値で残すとよい。
統合を担う事業者との関係づくりを急ぐ
本番運用で詰まるのは、既存システムとのつなぎ込みだ。日本でも、システム開発会社や大手ITベンダーが同様の動きを見せる可能性は高い。
自社のデータ整備が遅れていると、どんな技術も使えない。まず業務データを整理し、社内に最適化の課題を言語化できる担当者を置くことが、最も確実な準備になる。