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JUPITERで104量子ビットを再現、耐障害量子計算の現在地

JUPITERで104量子ビットを再現、耐障害量子計算の現在地

ニュースの概要

NVIDIAは、ドイツのユーリッヒ・スーパーコンピューティング・センターにある欧州初のエクサスケール機「JUPITER」を使い、耐障害性量子プロセッサの大規模シミュレーションを行ったと発表した。対象は104量子ビットの量子プロセッサである。現実的なハードウェアのノイズ(=計算を乱す雑音)を織り込んだうえで、耐障害性計算に欠かせないマジックステートの蒸留と培養という手法の動作を確かめた。実機がまだ小さくても、スパコン上で将来の設計を先に試せることを示した例といえる。量子コンピューターの開発競争は、実機の製造と並行して、古典計算機による設計検証の段階にも入りつつある。

引用元: NVIDIA、欧州のエクサスケールスパコンで耐障害性量子計算を大規模シミュレーション(NVIDIA / The Quantum Insider)

分析・見解

実機を待たずに設計の良否を見極める段階へ

量子コンピューターは、現在の実機だけでは大きな計算ができない。理由は雑音である。量子ビットは外乱に弱く、計算の途中で値が壊れやすい。そこで複数の物理量子ビットを束ねて、壊れにくい論理量子ビットを作る。これが量子誤り訂正である。

今回の発表の価値は、この仕組みを104量子ビット規模で、ノイズ込みで再現した点にある。完成した実機の性能を測ったのではない。将来の設計案を、先に古典計算機の上で試したのである。

マジックステートが耐障害計算の関門になる理由

耐障害性量子計算では、多くの基本操作を安全に実行できる。しかし、実用的なアルゴリズムに必要な一部の操作だけは、そのままでは安全に行えない。そこで使うのがマジックステートという特別な状態である。これを精度よく用意できれば、難しい操作を実行できる。

問題は、この状態が高コストなことだ。粗い状態を多数作り、そこから高精度なものを絞り出す。これが蒸留である。文献によっては、量子コンピューター全体の資源の大半がこの工程に消えるとも言われる。培養は、低品質な状態を段階的に育てて必要な精度へ近づける発想で、蒸留の負担を軽くする狙いがある。今回の検証は、まさにこの重い工程の現実性を測るものだ。

スパコンと量子機の関係は競合から分業へ

量子計算が古典計算機を置き換える、という見方は単純すぎる。今回の例が示すのは分業である。古典計算機は、量子機の設計、誤り訂正の復号、ノイズ解析を担う。量子機が一人前になるまで、むしろ古典側の需要は増える。

NVIDIAがこの領域に力を入れる背景も、ここにある。同社はGPUによるシミュレーションと、量子機と古典機をつなぐ基盤を売りたい。量子機の製造を競う企業が多いほど、設計を検証する計算資源は売れる。これは、金鉱掘りに道具を売る商売に近い。

104量子ビットという数字の読み方

104量子ビットは、一見すると小さい。だが、量子状態の記述に必要な計算量は量子ビットが一つ増えるたびに倍になる。単純な全状態の追跡では到底扱えない。実際には、誤り訂正符号が持つ構造を利用して計算を軽くしていると考えられる。エクサスケールの計算力と工夫が合わさって、初めて可能になった規模である。

それでも、実用的な化学計算や暗号解読に必要な論理量子ビット数には遠い。今回の成果は到達点ではなく、設計手法が実用域へ伸びうるかを確かめる中間地点と見るのが妥当である。

ビジネスへの影響

量子の実用化は一直線ではなく、段階的に進む

企業の意思決定者が押さえるべき点は、実用化の時期を一つの日付で語れないことである。耐障害性を備えた大規模機はまだ先だ。一方で、設計検証やノイズ解析の道具は今すぐ使える段階にある。まずは、量子そのものに投資するか、周辺の計算基盤に投資するかを切り分けたい。

製造、素材、創薬などで量子の恩恵を見込む企業は、実機の完成を待つより、自社の課題を量子向けに書き直す準備が先である。この翻訳作業には数年かかる。

今から取れる三つの実務的な備え

一つ目は、情報収集の担当者を置くことだ。専任でなくてよい。半期ごとに、誤り訂正の進展と論理量子ビット数の公表値を追うだけでも、判断の質は変わる。

二つ目は、クラウド経由の量子機やシミュレーターで小さな実験を行うことだ。費用は小さく、社内に言葉と経験が蓄積される。

三つ目は、暗号の備えである。量子計算の進展は、将来の暗号解読リスクに直結する。長期保存が必要なデータを持つ企業は、耐量子暗号への移行計画を今のうちに棚卸ししておきたい。

今回のような発表は、実機の登場が遠のいたのではなく、設計の確度が上がっていることを示す材料として読むのが堅実である。

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